「脳の暴走を止める呼吸法、試してみた!」

……でも、これだけでは根本は変わらない気がしていました。

夜中にぐるぐるしたとき、冷水で顔を洗って「よし、切り替えた」ができるようにはなった。でも翌日また同じタイミングで同じぐるぐるが始まる。脳のクセ自体はそのまま、という感じ。

名越先生のYouTubeをもっと見ていくと、「応急処置」の先に、もうひとつの話がありました。

「情緒を育てる」という、3ヶ月〜半年かけてじわじわ変わるアプローチ。

今日はこっちの話をまとめます。応急処置については「脳の暴走」を止める3つの方法の記事を先に読んでもらえると、繋がりが分かりやすいと思います。

「応急処置」から「土台づくり」へ

名越先生の教えは、大きく2つの層に分かれていると私は感じています。

ひとつは「今、脳の暴走が起きたとき、どう止めるか」という即効性のある技術。呼吸法・渾身の運動・冷水で顔を洗うなどがこれにあたります。

もうひとつは「そもそも脳が暴走しにくい状態を育てる」という長期的なアプローチ。こちらは3ヶ月〜半年という中長期的なスパンで積み重ねるものです。

どちらも大事ですが、「応急処置があれば安心」で止まってしまうと、根本はなかなか変わりません。

今日紹介するのは、後者。「情緒を育てることで、脳のクセ自体を変えていく」という話です。

「感情」と「情緒」は違うもの

名越先生のYouTubeで最も刺さった言葉のひとつが、「感情」と「情緒」の違いです。

「感情」は、スマートフォンの通知のようにパッパッと切り替わる、数秒〜数分単位の反応のこと。誰かのSNS投稿を見てムカッとしたり、LINEの既読スルーで不安になったり、子どもに怒鳴ってしまってすぐ後悔したり。これが脳の暴走の温床です。

「情緒」は、もっとゆっくりした、長いスパンの感覚のこと。百人一首の和歌が持つ奥行き、小津安二郎の映画を観終わった後の静かな余韻、竹林を歩いているときの「人間なんてちっぽけだな」という感覚、そういうものです。

名越先生曰く、現代人の脳は「短い感情」ばかりを消費するように慣れてしまっていて、「長い情緒」に触れる能力がどんどん鈍ってきている。

脳の暴走(ぐるぐる思考)は「短い感情」の領域で起きています。だから、「長い情緒」を育てることが、脳の状態を根本から変える手がかりになるんです。

「短いスパンで切り替わる感情に振り回されている状態から、ゆったりと流れる情緒の領域に自分の主座を移していく」

名越先生のこの言葉、最初は少し難しく感じたんですが、「情緒を育てる具体的な方法」を聞いていくうちに、「あ、こういうことか」と腑に落ちてきました。

毎日やれば人生が開ける「3つの習慣」

名越先生が紹介していた中で、「これ、毎日できそう」と感じたのが、密教(大日経)の教えにある「三句の法門(さんくのほうもん)」です。

むずかしそうな名前ですが、内容はシンプルな3つの心がけです。

① 自分はどこまでも成長できると信じる

人間の人格はとどめもなく成長できる、という信念を持つこと。「もう40代だから」「子育てが忙しいから」と自分の可能性に蓋をしない。他者と喜びや悲しみを分かち合いながら、より良い自分を目指し続ける姿勢が土台になります。

22歳で長女を産んで、今や高校生の親になった私ですが……「まだ成長できる」と思えるかどうかで、毎日の景色がかなり変わる気がします。

② 周りの人の痛みに思いを馳せる

相手の苦しみや悲しみをちゃんと感じようとすること。直接感じ取れなくても、「この人の人生の中にも、きっと本当につらいことがあるはずだ」と想像するだけでいい。

夫がムスッとして帰ってきたとき、「なんで不機嫌なのよ」と受け取るより、「今日、何か大変なことがあったのかも」と思いを馳せてみる。それだけで、自分の中の何かが変わります。

中2の長男が何も言わずに部屋に引きこもっていたとき、以前の私だったら「また宿題サボってる」と思っていた。でも「何かあったのかな」と想像する余裕が少しずつ持てるようになってきた気がします。

③ 人のために具体的に動く(方便)

3つの中でもっとも重要だと名越先生が繰り返し強調していたのが、これです。「方便(ほうべん)」とは、人のために何か具体的に力を貸してあげること。

「ほんの少しでいい」というのがポイント。1日の中でちょっとだけ、誰かのために動くことを心がける。それだけで、人生を満足して終えることができると名越先生は言っています。

これを聞いて思ったのは、子育てって実はすごく「方便」に近いなということ。でも「やらされてる」という気持ちでやっているときと、「この人のためにやりたい」と感じながらやるときでは、自分の内側の感覚がぜんぜん違う。同じ行動でも、どういう気持ちでやるかが大事なんだなと改めて気づきました。

「ソロタイム」を持つことから始める

「情緒を育てる」ための第一歩として、名越先生は「ソロタイム(一人で過ごす時間)」を持つことを強く勧めています。

4人の子育て中の私にとって「一人の時間」は宝物。正直、末っ子が生まれてからの2年間は、ほぼゼロでした。

名越先生は、ソロタイムの目的を「孤独を感じること」と表現していました。最初はちょっと引っかかったんですが……「孤独を感じる」というのはネガティブな意味じゃなく、「自分の底にある静かな感覚に触れる時間」ということなんだと解釈しました。

誰かと一緒にいたり、スマホを見ていたりすると、常に「外の刺激への反応」として自分が動いている。でも一人の時間は外の刺激がなくなるから、自分の内側にあるものが浮かび上がってくる。それがソロタイムの本質なんだと思います。

推奨されているのは、毎日15〜30分程度。朝少し早起きして、一人で静かに過ごす時間を作ること。

ソロタイムに試してほしいこと3つ

では、ソロタイムに具体的に何をすればいいのか。名越先生がおすすめしていた中から、私が実際に試してみたものを3つ紹介します。

① 朝の散歩+公園でぼーっとする

朝15〜30分ほど歩いて、公園のベンチに座る。犬を連れた人を遠巻きに眺めたり、木の葉っぱが風で揺れているのをぼんやり見ていたりするだけでいい。

ポイントは「スマホを見ない」こと。歩きながらポッドキャストを聴くのとは違って、音も情報も入ってこない状態で外にいる時間が大事です。

私の場合、末っ子を夫か祖母に任せて、週に2〜3回だけでも早起きしてひとまわりするようにしています。最初は「もったいないかな」と思っていましたが、帰ってきたときの清々しさが全然違う。その日の子育てが少し穏やかにできる気がします。

② 短歌・詩を声に出して3回読む

名越先生がソロタイムの実践として特に強調していたのが、これです。

百人一首でも、現代の詩でも何でもいい。谷川俊太郎さんの詩なども特に挙げられていました。それを、声に出してゆっくり3回読む。

「声に出す」という物理的な行為が大事で、目で読むだけとは脳への働きかけが違うそうです。自分の声を自分の耳で聞くことで、より深く「長い情緒」に触れることができる。

私が試したのは、百人一首のカルタを出してきて(長女が高1のときに使っていたやつ)、好きな歌を3枚選んで、朝のコーヒーを飲みながら小さな声で読んでみること。最初は「なんか変な感じ」でしたが、3回目になるとなぜか自然に言葉が染み込んでくる感覚があります。

③ 大自然の景色を1分間じーっと眺める

外に出られないときの代替手段として名越先生が話していたのが、これ。スマホで大自然の景色(広大な海、雄大な山など)を1分間だけじーっと眺める。

「たった1分」と思うかもしれませんが、スクロールせず、コメントも読まず、ただ見る、というのがポイントです。

情報として処理するのではなく、「感じる」だけに集中する1分。末っ子のお昼寝中に試したところ、これが意外とリセット効果があって驚きました。

「骨のある名作映画」を観る

情緒を育てる方法として、名越先生が特に力を込めて語っていたのが映画の話でした。

おすすめされていたのが、「骨のある名作を10〜20本まとめて観る」という修練です。

具体的に名前が挙がっていたのは:

  • 小津安二郎監督の『東京物語』『麦秋』
  • 山田洋次監督の『男はつらいよ』シリーズ、『幸福の黄色いハンカチ』

「1〜2本観て終わり」ではなく、「この際まとめて観てやろう」という意気込みで取り組むことで、自分の中に「思想」や「揺るぎない視点」が育っていく、と名越先生は言っていました。

正直、私はこれが一番腰が重かった。小津安二郎って名前は知っていたけれど、「白黒映画かあ……」と思っていて。

でも夫と『東京物語』を一緒に観てみたら、2時間が終わったあとに何ともいえない静けさが残って、しばらく二人でぼーっとしていました。「なんかよかったね」って、それだけしか言葉が出なかった。

その「なんかよかった」が言葉にならずに心に残る感じ、これが「情緒に触れる」ということなんだと思います。スマホで5秒で忘れる情報とは、全然違うものが残りました。

44歳・4児ママが実践して感じた変化

これらの習慣を取り入れて数週間が経った今の実感を正直に書きます。

劇的な変化はありません。でも「あ、ちょっと違うかも」と感じる瞬間は確実に増えました。

たとえば、9歳の次男が宿題をずっとやらなくてイライラしてきたとき、以前だったらそのまま感情に引っ張られていたのが、「あ、今ちょっと脳が動き出しそう」って気づく間が生まれてきた感じ。そこで深呼吸ひとつして、「なんで宿題やりたくないのかな」と聞いてみる余裕が出てきました。

夜中にぐるぐるする頻度も、前より少し減りました。完全にゼロではないけれど、ループに入っても前より早く抜け出せる気がします。

一番の変化は、朝の散歩を続けているうちに、「今日もやらなきゃ」という義務感が薄れてきて、「行きたいな」という感覚に変わってきたこと。ここが変わったとき、「ああ、何か変わってきてるのかも」と思いました。

名越先生は「3ヶ月〜半年でじわじわ変わっていく」と言っていたので、まだ途中。でも「変化の方向は合ってるかな」という手応えはあります。

まとめ

呼吸法や冷水で顔を洗うのは「今、脳の暴走を止める応急処置」。情緒を育てることは「脳が暴走しにくくなる土台づくり」。

どちらも名越先生が教えてくれたことで、車の両輪のような関係だと思っています。まずは応急処置を手に入れて、そこに土台づくりを少しずつ加えていく。「疲れすぎない程度に、ちょいちょいと」というのが名越先生のスタンスでした。

朝の散歩も、短歌の朗読も、名作映画も、全部「大変なこと」に見えるかもしれない。でも「1分間、大自然の写真をじーっと見るだけ」から始めてもいい。その積み重ねがじわじわ効いてくる、というのを信じてやってみています。

応急処置のやり方は、こちらの記事でまとめています。合わせて読んでもらえると嬉しいです。
「脳の暴走」を止める3つの方法|精神科医・名越康文さんのYouTubeに学んだ切り替え術

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YouTube以外でも、名越先生の考え方をもっと深く知りたい方に。先生の著書もとても読みやすくておすすめです。