「今年の夏、初盆があるんだけど……何をすればいいの?」

義父が亡くなり、四十九日を終えた春、夫とそんな言葉を交わしたのを今でも覚えています。毎年お盆は迎えてきたけれど、初盆は勝手が全然違う。白提灯って何?お供えの種類が多すぎてわからない。誰を呼ぶの?費用はどれくらいかかるの?——疑問が次々と湧いてきました。

44歳、4人の子どもと母方の祖父母と一緒に暮らしている私が、実際の初盆を通じて「これは事前に知っておきたかった」と感じたことを、準備・マナー・費用まで1記事にぎゅっとまとめました。天台宗の作法も含め、初めての方でもわかるよう順番に解説します。

初盆(新盆)とは?まず基本を押さえよう

初盆とは、故人が亡くなって四十九日の忌明け後に、初めて迎えるお盆のことです。地域によって「はつぼん」「にいぼん」「しんぼん」など読み方はさまざまで、「新盆」と書く地域もあります。

通常のお盆と何が違うかというと、一言でいえば「故人が初めてこの家に帰ってくるお盆」というその一点に尽きます。亡くなってから初めての里帰りだからこそ、普段のお盆よりも丁寧に、手厚く迎えることが求められます。

ひとつ注意が必要なのが、「四十九日が明けていること」が前提という点です。たとえばお盆(8月13〜16日)の前に四十九日が明けていない場合は、その年ではなく翌年が初盆になります。わが家の場合は3月に亡くなりましたので、その夏が初盆でした。

天台宗は法華・密教・浄土・禅を一つに束ねる「四宗融通」という考え方が特徴で、初盆の行事もこれに基づき荘厳に行われます。宗派によって作法に違いがある部分もありますので、迷った点はまず菩提寺の住職に確認するのが一番確実です。

初盆と通常のお盆の主な違い

  • 白提灯を飾る(初盆のみ)
  • より多くの親族・知人を招くことが多い
  • お布施の金額が通常のお盆より高め
  • 僧侶を招いて法要(読経)を行う

初盆の盆棚・お供えの準備

初盆の準備で最も時間と手間がかかるのが、盆棚(精霊棚)のセッティングとお供え物の用意です。「何を揃えればいいの?」と途方に暮れた私の経験を交えながら解説します。

白提灯(白紋天)は初盆だけのアイテム

通常のお盆と初盆でいちばん目に見えて違うのが、白提灯(白紋天)の存在です。初盆の故人は、あの世とこの世の道をまだ知らないとされているため、迷わず帰れるよう白い提灯を目印にします。玄関先や縁側、仏壇の脇に吊るします。

大切なのは「使い終わったら処分する」という点です。初盆が終わったら菩提寺に持参して供養してもらうか、お焚き上げに出します。翌年からは通常の絵柄入り提灯を使います。「来年も使えるから取っておこう」はNGです。

インターネットでも購入できますが、私は地元の仏壇店で買いました。店員さんに相談しながら選べるので安心でしたよ。

精霊馬・精霊牛を子どもたちと一緒に作った

きゅうりで「馬」、なすで「牛」を作る精霊馬・精霊牛の風習。9歳の次男が「なんで野菜で動物を作るの?」と聞いてきて、一瞬返答に詰まりました(笑)。

意味を調べると、きゅうりの馬は「早く帰ってきてほしい」、なすの牛は「ゆっくり帰っていってほしい」という故人への気持ちを表しているとのことでした。割り箸4本を足に見立てて刺すだけで簡単に作れます。子どもたちも楽しそうに手伝ってくれて、13歳の長男が率先して形を整えていました。こういった作業を通じて、初盆の意味を自然に子どもに伝えられるのがいいなと思いました。

時間が取れない方には、市販の精霊馬セットも売っていますのでそちらを活用するのもひとつの手です。

水の子(天台宗で大切にされるお供え物)

天台宗の初盆で特徴的なのが「水の子(みずのこ)」というお供え物です。蓮の葉の上に、細かく刻んだなすやきゅうりと洗ったお米を混ぜて盛り付けます。

これは「施餓鬼(せがき)」の精神を表したものです。餓鬼道に落ちてしまった霊にも食を施すという、天台宗が大切にしている考え方に基づいています。住職から「天台宗では特に重視しているお供えです」と教えていただいてから、一層丁寧に用意するようになりました。

盆棚に揃えるものチェックリスト

以下をまとめて準備しておきましょう。私はこのリストを印刷してスーパーと仏壇店をはしごしました。

  • 白提灯(白紋天)※初盆のみ使用
  • 真菰(まこも)のゴザ:棚の敷物に
  • ほおずき:霊の目印・提灯の代わりに
  • 素麺:細長い縁を表す
  • 季節の野菜・果物(桃、ぶどう、メロンなど)
  • 迎え団子・お供え団子・送り団子
  • 故人の好物
  • 五供:線香・ろうそく・花・水・食べ物(精進のお膳)
  • 精霊馬(きゅうり)・精霊牛(なす)
  • 水の子(天台宗)

お供えで避けるものとして、肉・魚など殺生を連想させるもの、にんにくやねぎなどの五辛(ごしん)が挙げられます。天台宗では精進料理が基本です。

初盆の法要・当日の流れ(13日〜16日)

お盆期間中は何をどの順番でするのか、初めてだと戸惑います。私が実際に経験した4日間の流れをご紹介します。

13日(盆入り):墓参りと迎え火

お盆初日の午前中はお墓参りをして故人を「お迎え」します。初盆は特別な意味を持つので、家族みんなで揃ってお参りするのが望ましいです。墓前で手を合わせたとき、子どもたちも神妙な顔をしていました。

夕方になったら玄関先や庭先で迎え火を焚きます。煙に乗って霊が帰ってくるとされています。16歳の長女が2歳の末っ子を抱っこしながら火を眺めていた光景は、今でも記憶に残っています。

14〜15日:法要・読経

この期間中に僧侶を招いて自宅で法要を行うか、菩提寺での合同供養会に参列します。天台宗では初盆の法要と「施餓鬼会(せがきえ)」を合同で営むことが多く、お寺の本堂に集まって行う形をとるところもあります。

読経では主に『法華経(妙法蓮華経)』や『仏説阿弥陀経』が読まれます。焼香の回数は天台宗では1回または3回が基本で、抹香をつまみ額の高さに持ち上げてから香炉に落とす「押しいただく」作法を行います。

16歳の長女から「焼香って何回すればいいの?」と前日に聞かれたので、事前に作法を確認しておいてよかったと思いました。子どもたちに説明する立場になってみると、自分もしっかり理解しておかないとと改めて感じます。

16日(盆明け):送り火

最終日の夕方には送り火を焚いて、故人の霊を送り出します。初盆は特に感慨深く、家族全員で「また来年ね」と手を合わせました。2歳の末っ子が「バイバイ」と無邪気に手を振っていて、笑えるのに涙が出そうになりました。

初盆には誰を呼ぶ?招待範囲の決め方

「誰を招待すればいいの?」——これが初盆準備で最もモヤモヤした点でした。初盆は通常のお盆よりも広い範囲の親族・知人を招くのが伝統的なスタイルですが、現代では家庭の事情に合わせた判断で問題ありません。

一般的な招待範囲の目安

招待する人を決める基準として、「故人が喜ぶかどうか」を軸に家族で話し合うのが一番です。一般的な範囲の目安は以下の通りです。

  • 親族:故人の兄弟姉妹とその配偶者まで
  • 友人・知人:故人と特に親しかった方
  • 葬儀参列者:葬儀に来てくださった方を中心に
  • 近隣の方:地域によってはお参りに来られることも

住宅事情や人数が多くなる場合は、寺院や法要会館を借りる方法もあります。遺族から案内状を出さない限り、知人・友人が自発的に参加することはありません。招待したい方には早めに連絡を入れておきましょう。

「家族のみ」で行うケースが近年増えている

家族葬の普及や生活スタイルの変化から、家族や近しい身内だけで初盆を行うケースも珍しくなくなっています。私の周りでも「今年はこじんまりやった」という声をよく聞きます。

また、親族の中に長年連絡が取れていない兄弟がいる場合など、招待範囲の判断に迷う状況もあります。そういったケースの具体的な対処法については、こちらの記事もあわせてご覧ください。
相続で音信不通の兄弟がいる場合の対処法と相談先の選び方

家族のみで初盆を行う場合のマナー

家族だけで初盆を行うのは決して失礼ではありません。ただし、招かない親族や知人への配慮を丁寧にすることが大切です。

1〜1.5ヶ月前に連絡を入れることが鉄則

「家族のみで執り行います」という連絡は、初盆の1〜1.5ヶ月前には済ませておきましょう。直前になると、相手がすでに訪問の準備をしていたりお供えを手配済みだったりして、かえって迷惑をかける可能性があります。

伝え方は挨拶状(ハガキ)か電話が基本です。「故人の生前の希望で家族のみで静かに」「遠方なのでご負担をおかけしたくなく」などの一言を添えると、相手も受け取りやすいです。お供えや香典を辞退する場合は、その旨もはっきり明記しておきましょう。

法要が終わった後は「無事に初盆を終えました」という事後の挨拶状を送ると、より丁寧な印象になります。

服装は落ち着いた「略喪服」でOK

家族のみで行う場合、正式な喪服(準喪服)でなくても、黒・紺・グレーを基調とした落ち着いた服装であれば問題ありません。ジーンズやサンダルなどカジュアルすぎる格好は避けましょう。

真夏で暑い時期ですが、肌の露出は控えめに。子どもは学校の制服があればそれが正装になります。制服のない子は白シャツに黒・紺のズボンやスカートが基本スタイルです。うちの末っ子(2歳)は白いシンプルなワンピースにしましたが、問題ありませんでした。

予期せぬお供え・香典が届いたときの対応

「辞退します」と伝えていても、お供えや香典が届くことがあります。その場合は感謝の気持ちとして返礼品を用意するのがマナーです。いただいた金額の3分の1〜半分程度が目安で、そうめん・ゼリーや水ようかんなどのお菓子・洗剤など「消えもの」と呼ばれる品が定番です。のしの表書きは「志」または「初盆志(新盆志)」とします。

初盆のお金・費用の相場まとめ

「初盆っていくらかかるの?」——正直、これが一番気になる部分ですよね。実際にやってみて、思ったより多くの出費があることを実感しました。葬儀の費用と同様、相場を知らないまま進めると想定外の請求になることもあります。事前にしっかり把握しておくことをおすすめします。

葬儀費用の相場や注意すべき業者の手口については、こちらの記事も参考にどうぞ。
葬儀の相場とぼったくり業者の手口・見積もりで確認すべき10のポイント

お寺へのお布施の相場

住職を自宅に招いて読経をお願いする場合のお布施の相場は、天台宗では30,000円〜50,000円程度が目安です。通常のお盆法要(5,000円〜10,000円程度)と比べると、かなり高めになります。

これに加えて、以下も別途必要になる場合があります。

  • 御車代:5,000円〜10,000円(住職が自宅に来る場合の交通費として)
  • 御膳料:5,000円〜10,000円(法要後の会食を住職が辞退された場合)
  • 施餓鬼料:5,000円〜10,000円(施餓鬼会を合同で行う場合)

お布施の袋は白封筒か奉書紙を使い、表書きは「御布施」と濃い墨で書きます。お布施は感謝の気持ちを表すものですので、薄墨は使いません。水引は基本的になくても構いませんが、地域によっては双銀や黄白のものを使う場合もあります。

参列者が持参する香典の相場(関係別)

招かれた側として初盆に持参する金額の目安です。四十九日を過ぎているため、表書きは「御仏前(御佛前)」または「御供物料」と書きます。「御霊前」は使わないので注意してください。

  • 親・兄弟:10,000円〜30,000円
  • 祖父母:5,000円〜20,000円
  • 親戚・友人:3,000円〜10,000円

法要後に会食がある場合は、食事代として1人あたり5,000円〜10,000円程度を上乗せして包むのがマナーです。また、近親者の中には香典とは別に「御提灯代」を5,000円〜20,000円ほど渡す習わしがある地域もあります。

施主が用意する返礼品(お返し)の目安

香典やお供えをいただいた方への返礼品は、いただいた金額の3分の1〜半分(半返し)が目安です。品物はそうめん・お菓子(ゼリー、水ようかん)・海苔・日本茶・洗剤など、使ったらなくなる「消えもの」が定番です。のしの水引は「結び切り」、表書きは「志」または「初盆志」とします。西日本では「粗供養」とする地域もあります。返礼品には感謝の言葉と法要の報告を添えた礼状を同封するとより丁寧です。

よくある疑問|孫・親戚の参加マナー

周囲から聞かれることが多い疑問をまとめました。

Q. 結婚して姓が変わった孫娘はどんな立場になる?

結婚して姓が変わっていても、実の孫であることに変わりはありません。特に故人と生前同居していたお孫さんは、縁の深い近親者として施主側の親族の一人として参加するのが一般的です。

「家族のみ」で行う場合でも、一緒に暮らしていたお孫さんは「家族」の範囲に含まれることがほとんどです。夫や子どもの参加についても、まずは施主(喪主側)に確認しておくとスムーズです。

Q. 孫の夫(孫婿)や子ども(ひ孫)は一緒に参加してOK?

はい、夫婦一組として招待されるのが通例です。孫婿として親族の列に加わり、ひ孫にあたるお子さんも家族単位で一緒に参加します。

香典袋には現在の氏名(夫の姓)でフルネームを記します。夫婦連名にする場合は、中央に夫の氏名、その左に妻(お孫さん)の名前のみを書きます。姓は夫の姓をひとつ書けばOKです。

Q. 子どもの服装は何を選べばいい?

学校の制服があればそれが正装になります。制服のない子は白シャツに黒・紺のズボンやスカートが基本スタイルです。靴はサンダルや派手な色を避け、落ち着いた色合いのものを。うちの2歳の末っ子のように小さな子は、白や薄い色のシンプルな服装であれば大丈夫です。

まとめ

初盆は「故人が初めてこの家に帰ってくる特別なお盆」です。何もわからない状態からのスタートでも、ひとつひとつ順番に準備を進めれば必ず形になります。

私自身、初盆を経験して一番感じたのは「こういう時間が家族を繋ぐんだな」ということでした。子どもたちと精霊馬を作り、迎え火・送り火を囲み、故人の話をしながら過ごした4日間は、忙しい日常では持てない大切な時間になりました。16歳の長女が「おじいちゃんに見てもらえたかな」とつぶやいていたのは、今も心に残っています。

細かい作法は宗派や地域によって異なりますので、迷ったことは早めに菩提寺の住職に相談するのが一番確実です。「丁寧に迎えたい」という気持ちさえあれば、完璧でなくても故人に届くはず。この記事が、初めて初盆を迎える方のお役に立てれば嬉しいです。